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石の島コラム

魅惑の迷宮へ迷いこむ(土庄町編)

石の島コラム
魅惑の迷宮へ迷いこむ(土庄町編)
オリーブの島、醤油の島、アートの島などと呼ばれ、多彩な顔を持つ小豆島。実は、巨大な花崗岩が採れる「石の島」だと知っている人は多くないかもしれない。島の石材産業は、醤油や素麺と同じく、約400年もの長い歴史がある。
島内では、もともと家の基礎となる土台やしし垣に使ったのが始まりだと言われている。日本全国の三角測量の三角点に使う石柱は、そのほとんどが小豆島・土庄町産である。そして大阪城の石垣にも使われている。
小豆島もまた日本近代化の波に乗り、北木島や讃岐広島と同様、石材産業は島の暮らしや文化に大きな影響を与えてきた。


土庄町で、石を感じられる魅惑的な迷宮がある。
それは、「迷路のまち」と謳われる路地だ。船の玄関口である土庄港から歩いて20分ほど。世界一狭いとギネス認定されている土渕海峡(どふちかいきょう)のすぐそばにある、「迷路のまち」と書かれた看板地点からスタートするといい。そこからシンボリックな西光寺を目指して歩けば、思う存分迷宮入りできる。



歩き始めると、まず商店の多さが目につく。もともと迷路の街は商業の街だった。今でも、電気屋、靴屋、金物屋など、昭和の頃を思わせる商店が軒を連ねてノスタルジックだ。
妖怪美術館を過ぎたあたりから、いよいよ三叉路やクランク状、T字の路地が増えていく。人間一人が通れるほどの細い道も、立派な歩道だ。あちこちに消火栓があるのは、消防車が入れないための対策らしい。

あれ、あれ。海の方角はどっちだった? 西光寺は?
ある程度方向感覚に自信はあっても、そう簡単には覚えられない。この町並みは、南北朝時代の戦乱時に形成されたといわれている。その頃、戦場でもあった小豆島は、海から攻め込む敵との攻防戦に備えて、わざと複雑に入り組んだ港町特有の路地を作ったのだ。面白いことに、小豆島でもらった「迷路のまち・まち歩きマップ」にも、ざっくりとした道しか書かれておらず、細かな道は複雑すぎるのか省かれている。かえって冒険心がむくむくと湧いてくる。


「ところで、ここは海が近いから、風が強いでしょ? でも、ほうらね、この路地を曲がると風が弱くなったやろ」と、迷路のまちのボランティアガイドをしている泊さんに教えてもらった。複雑な家の配置は、潮風から家を守るための工夫でもあるそうだ。瀬戸内海の島々でよく見られるが、船大工の手がけた家も多いらしい。
よく見れば、家の土台となる基礎石や、石垣、井戸など、石が長く人の暮らしを支えていることに気づく。



「スナックより道」「スナックすずめ」のレトロな書体の看板が目についた。そのドアは、私の背丈よりも低く、可愛らしい。まだまだ現役で、地元の人の交流の場だ。
「ここでお酒に酔ってしまうと、島の人でも道に迷って帰れないの」
「そうなんだよねえ」
と、地元のおじちゃんたちは楽しそうに笑う。

迷路のまちボランティアガイド協会 顧問の鎌田久司さんと

どこからでも見つけやすい朱色の三重塔・誓願の塔を頼りに、ようやく西光寺に到着した。西光寺の塀もまた石垣が見事だ。
境内に着いて、一息つく。
まるでゲームをクリアしたかのように、心が晴れ晴れとしている。
西光寺は小豆島八十八ヶ所霊場の第58番礼所で、巡礼者も多く訪れる。奥の院を参拝して、おみくじを引いたみた。令和になって初めてのおみくじだ。いただいた御言葉をありがたく胸に刻む。


ところで、西光寺の境内にも島の石が多く使われている。とくに、三重塔の東側にある王子神社の本殿を覆う鞘堂は、基礎石から柱がすべて石でできていて、非常に珍しいそうだ。
西光寺の三重塔


西光寺を後にして、迷路のまちを出ようと歩き始めると、豊臣秀吉の時代から江戸時代にかけて、加藤清正が採石奉行をつとめた陣屋跡地にでくわした。情緒的な石垣の塀がかつての栄華を伝えているようだった。
立派な塀が残る陣屋跡

迷路のまちボランティアガイド協会 会長の泊満夫さんにご案内頂きました

こうして迷路のまちでは、いとも簡単に迷宮入りを果たし、まるでそこは、平成へ、昭和へ、江戸へと時代を遡っていくような感覚がした。同時に、石の存在なくして小豆島の歴史や人の暮らしは語ることができないのだと感じた。小豆島の多彩な魅力に、新たに素敵な色を見つけた気がする。




旅作家・旅女 小林 希 プロフィール


旅、島、猫を愛する旅作家/元編集者/Officeひるねこ代表/離島アドバイザー/日本旅客船協会「船旅アンバサダー」
1982年生まれ、東京都出身。在学中写真部に所属。
2005年サイバーエージェントに入社、出版社に配属。2011年末に出版社を退社し、世界放浪の旅へ。
1年後帰国して、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家に転身。主に旅、島、猫をテーマに執筆活動・写真活動している。著作など多数。
また、瀬戸内海の讃岐広島に「ゲストハウスひるねこ」をオープンするなど、島プロジェクトを立ち上げ、地域おこしに奔走する。現在海外65カ国、国内100島めぐる
年150日は東京以外の他拠点生活。旅でみんながつながるオンラインサロン『しま、ねこ、ときどき海外』を運営し、サロンメンバー(ひるねこ隊)の隊長として、さまざまな旅企画など実行中。女性誌『CLASSY』やデジカメWatch、ペットゥモローなどで連載中。
2019年11月より一般社団法人日本旅客船協会の船旅アンバサダーに就任。海事観光、船旅を盛り上げるべく活動している。

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